(12)-「歯は鋭敏な感覚センサー」
 歯の機能を科学的に調べると興味深い事が多い。例
えば、オリンピック陸上男子百メートルで金メダリス
トのカール・ルイス、百メートルの前世界記録保持者
のリロイ・バレル両選手は、ともに器具を使い歯並び
を整えていた。歯の微妙な噛み合わせの修正が大きな
カを出させ、好記録に結びついている。また、上下の
歯の間にはさまった髪の毛一本をだれもが異物と感じ
ることができるのは、歯と顎の骨の間にある歯根膜と
いう感覚センサーのおかげと名古屋大学の上田教授は 指摘している。そして、モグラやネズミでいえばヒゲ に相当する感覚器とも考えられ、歯が無くなると鋭敏 な神経からの信号が脳に入らなくなり、ぼけにもつな がるのではと説明している。さらに、残っている歯の 本数と脳の萎縮度の関係に注目し、痴呆患者75人と 健康な高齢者78人を調べた結果、痴呆患者の平均残存 歯数は約4本、健康老人約9本と大きな差が認められ ている。また、合計153人全員の頭部をコンピュー ター断層撮影で比べると、残存歯数が少ないほど、 側脳室という脳内の隙間が広く脳の萎縮が進んでおり、 痴呆患者は健康老人より平均約15%ほど脳が萎縮して いることもわかった。歯の喪失が痴呆の原因か、 痴呆により歯の喪失が進んだのかについては論議が でるが、多くの動物実験においても、「歯の喪失が アルツハイマー型痴呆症の原因のひとつになつている のではないか」とみられている。いずれにしても、 歯の喪失が全身の健康に与える影響は大きい。しかし 現在歯がなくても、義歯により機能が回復しておれば なんら問題はない。喪失防止は定期検診が最も重要で、 これからの超高齢化社会では歯も体にあわせて寿命を 延ばすことが健康な老後につながることは間違いない。